■さあ笑えっ!って、どうやって? The Answers of 「笑いヨガ」
11月11日、文京シビックセンター(東京・文京区)で"笑いヨガ"体験会が行われた。冷たい雨の日であったが、やってきた参加者たちは90分あまり笑いの渦中のただ中にありワァアハッハーと笑い明かした。誤解をさけるために言っておくと、別に特段、笑いヨガの講師の先生が笑いのセンスを持っていたというわけではない。ただ皆、'無条件に'笑っていただけなのである。うんっ!? よし、誤解が生まれぬよう、"笑いヨガ"について説明しておこう。
笑いヨガとは「笑い」にヨガの呼吸法を組み合わせたエクササイズで、 1995年にインドの医師が考案して以来、アメリカやヨーロッパなど世界60カ国以上で広く行われている人気のエクササイズである 。
日本では2006年に紹介され、健康志向の高まりやヨガブームに乗って、わずか3年で現在、全国50か所以上笑いヨガを行っているクラブがある 。誰にでもどこででも、一切お金をかけずにできる上に、健康にもダイエットにもよいときたら広がるのは当然といえるかもしれない。
はじめに基本動作として 、息をいっぱい吐き出し、ゆっくりと息を吸い込んだ後2~3秒余り息を止めて、'笑い'ながら息を吐き出す。ここでどうやって笑うかが問題なのだが、笑いヨガが示す解決法というのは、笑いたいかどうかに関わらず、ただ「無条件」に笑う、ワァアハッハーと笑っている動作・フリをするというものである。至極シンプル、かつ斬新な発想だ。
しかし、本当にそれだけのルールで笑い続けられるのか。実はここにひとつのからくりがある。心理学でいうミラーリング効果というものである。よく人に連られて笑うというが、まさにそれであり、自分が笑えば相手も連られて笑い、笑う相手を見て自分も笑う、そして相手も・・という風に無限にループしていく。笑いは伝染していくのだ。笑いヨガをみんなでやる意味はここにある。
■楽しいから笑う、笑うから楽しい?そして体も笑う!
笑っていると楽しくなるのは なぜなのだろうか。それは笑うと血中のセロトニン濃度(俗に幸福ホルモン)があがって良い気持ちになり、血中のコルチゾール濃度(俗にストレスホルモン)が下がり、前向きな気持ちになるからだそうだ。
また笑うと自律神経系に作用してストレスを解消し、副交感神経優位の状態が保たれることによって、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)やT細胞(免疫細胞の一種)が活性化されるらしい。免疫のバランスがよくなった結果、がん細胞の数が減ったり、血糖値が下がったり、リウマチの痛みが和らいだりもするという。
それだけではない、笑うという動作は、腹筋と横隔膜を使う全身運動であるためフィットネス効果もある。調査によると3分半の各運動で、笑いは約11キロカロリー、早足で歩いて約17キロカロリー、軽い腹筋運動で約8キロカロリー消費する。なかなかの運動量であろう。
■どんな笑いも、笑いは笑い、体に良いのだ!
上記のように笑いが体になぜ良いか、どんなに良いかはテレビやマスコミでも近年、盛んに取り上げられているが、果たして作り笑いでも効果はあるのか。"笑いヨガ"で気になるところである。しかしご安心を。脳は笑っている動作だけでも、本当に楽しいことがあったのだと間違って認識するそうだ。幾つかポイントがあって、顔を左右均等に(顔中で) 笑う、目からしっかりと笑うと、さらに効果は高まるという。
あなたの魅力的な作り笑いに騙されるのは他人だけでなく、あなた自身でもあるのだ。そう考えると、世のため人のため自分のため、ひたすら笑い続けていれば良いのだが、そうはいかない世の中である。何もないのに上司や同僚、恋人の前でゲラゲラ笑い続けていると間違いなく、眉を顰(ひそ)められることになろう。
ある調査によると、大人が一日に声をだして笑う時間の総計は平均で23秒・・。冷たい親父ギャグであっても少なくとも自分のために笑ってみる価値は十分にある。笑えないことばかりのご時世ではあるが、たまには眉間のしわをほぐしあうのもよかろう。笑う門には福来ると古人はよく言ったものだ。
■笑いヨガやっちゃいました!
それでは実際に私も体験させてもらった。はじめのうちは、「はぁ~、何やってんだろ自分。」と、虚しさや気恥かしさに襲われ、冷たい雨の中に飛び出したい気持ちでいっぱいになったが、前述のミラーリング効果が発揮されてきたのか、ハイテンションな空気に体が馴染みだし、苦もなく、というか自然に笑いがふつふつと沸き起こってきた。だんだん開き直りというか「結構笑えるじゃん!?」と、笑いの快楽に味をしめ!?、取材そっちのけで笑いの世界へ没入していくことになる・・・。
ところで、どんな笑いエクササイズがあるかというと、互いに相手の目を見て握手しながら笑う、"あいさつ笑い "、大きく目を見開き舌を口から突き出して笑う、"ライオン笑い、梅干しを口にしているという設定で酸っぱさを堪えつつ笑う、"すっぱい梅干し笑いなど非常にバラエティーに富む。また一つのエクササイズは30秒から1分位 と短く、「ホ、ホ、ハハハ♪」というリズム感のある合図で各エクササイズの区切りをつけていくので 非常にテンポが良く飽きがこない。最後に深呼吸をしながら軽い瞑想を行って体験会を終えると、その間90分はあっという間であった。
しかし、である。印象はまず第一に、これって本当にヨガ?という疑問である。実のところ、体験会での説明でも笑いヨガは笑いとヨガの呼吸法を組み合わせたエクササイズとされており、健康エクササイズであって少なくとも狭義の(精神修養としての)ヨガではないみたいだ・・。そもそも近年はやりだした様々な"ヨガ"は、狭義のヨガの「エクササイズとしての側面」を応用、発展させたものも少なくなく、この素朴な疑問自体難しい問いとなる。
とても楽な運動ではあったが、先に述べたように笑いは全身運動であるせいか数分笑い続けると 意外と汗をかいた。
運動強度が低く体力や柔軟性を必要とされない分、他のエクササイズやフィットネスに くらべ最初のハードルがかなり低いため、笑いヨガの射程はかなり広い。
今回の体験会の参加者たちも男女問わず様々な年齢の方がおられ、各人充足した時間を過ごしたようである。笑いヨガを何度も行っている参加者たちは笑いヨガの良さや体や心に与える好影響を語ってくれた。笑いヨガは老人ホームや病院などでも行われていて、リウマチの改善や精神面での好影響、記憶力の向上などの成果をあげているそうである。
■技術的考察と"本当の笑い"
ふりかえって見てみると、笑いエクササイズ の大きな共通点として気づいたことは、全ての笑いエクササイズに "ごっこ遊び"の要素が含まれているということである。与えられた「○○ごっこ」を演じることにより、童心に帰らせる、 つまり社会化された自分から一旦離れさせ、ごっこに夢中にさせることで大人の仮面をはがし、無条件な笑いから自発的な笑いへの橋懸かりをつくる。○○を様々のものへ次々に取り換えていくことで、 大人の仮面をかぶり直す暇を与えない。心理学的な説明がどうなのかは分からないが、体験として私が感得したところのものであり、笑いヨガの勘所ではないかと思う。
こう考えてみると、笑いというものがいかにプライベートなものであるか、また、いかに社会生活の上で抑圧されているものであるのか、と思わずにはいられない。無条件には笑えるが、自由には笑えない。つまり、子供は見たままを 笑うことができるが、私たちは そうはいかないということである。
繰り返されるお笑いブームは、次善策としての自力救済策であり、笑いを個人の領域へ取り戻そうとするムーブメントの一種ではないのだろうか。無論、社会化なくして人間なしであるから、避けられない問題ではあると思うが、少なくとも無条件には笑えるように人間はできているみたいなのだから、とりあえず'無心'にワァアハッハーと笑ってはみてはいかがだろう。それが本当の笑いかと反論されればもっともなことだと思うが、ならば'本当の笑い'は見方・考え方・振舞い方次第で実生活の中に個々人が見つけていくべきものでもあろう。
平均して一日に23秒の笑い、あなたはもっと笑っているだろうか ?
Link 「日本笑いヨガ協会」 http://waraiyoga.org/
「ラフターヨガジャパン」 http://www.laughteryoga.jp/
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