「ジェンカ」や「マイム・マイム」、「オクラホマ・ミキサー」----。
キャンプファイヤーを囲んで、あるいは運動会の遊戯演目で、誰しも一度は踊った思い出があるだろうフォークダンス。
そんなフォークダンスを今、少子化対策につなげることができないだろうかとユニークな活動が動き出しつつある。
「フォークダンス」は少子化対策の新しい切り口となるか
4月29日、晴天のもと沢山の家族連れや若者たちで賑わう都立光が丘公園(練馬区)にて、「国際ダンスデーフェスティバル」が開催された。4月29日がユネスコの「ダンスの日」であることにちなみ、集まった人たちがその場で簡単なフォークダンスを習い、実際に踊ってみようというもの。そのほか本イベントはゲームあり、大道芸あり、民族舞踊の演舞ありと、楽しい野外レクリエーション企画となっている。
今回のイベントを運営するのは、学生や若い会社員がボランティアで集い、構成する練馬フォルクローレ実行委員会。「フォルクローレ」とは、一般に民俗学や民間伝承のことを指すが、彼らはこれを「少子化対策のためのフォークダンスの集い運動」の呼称として用いている。具体的にフォークダンスがどう少子化対策につながるのかといえば、フォークダンスで青少年の出逢いと交流を図る----つまり、健全な男女の出逢いの場を設けることで少子化問題を打開しようというのだ。
少子化という、現代日本が抱えた深刻な問題。果たして、フォークダンスはこの現状を解決へと導く起爆剤となるのだろうか?この命題を考えるにあたり、まず我々は、フォークダンスの何たるかについて知っておく必要があるだろう。
盆踊りもフォークダンス!? 意外と知らないフォークダンス
フォークダンスは、広義には民族あるいは民俗舞踊、すなわち世界各地の土着的な踊りを指す。よって盆踊りや阿波踊り、田楽などもフォークダンスと呼ぶことが出来るが、日本で一般的にフォークダンスといえば、冒頭に挙げたような外国から紹介された踊りをさす。この中にもさらに細かい分類はあるが、たいていの人は経験的にも「男女がペアになったり、相手を変えたりしながら大勢で踊るダンス」といったものを思い浮かべることだろう。
盆踊りにもジェンカにも共通しているように、「大勢で踊る」フォークダンスは世界各地に存在している。祭りや儀式、娯楽など、踊る際の目的やその起源はそれぞれ違えど、村や集落の中で共に暮らす人々の連帯感を強める効果も担っていたといえよう。実は、この「連帯感の強化」という点が小学校や中学校で踊ったなつかしのフォークダンスに繋がってくる。
記事冒頭に挙げたような、いわゆるフォークダンスが日本へと伝わったのは明治期で、鹿鳴館でも踊られたという記録がある。だが、民間に本格的に普及していったのは戦後である。当時の文部省が主体となって各地へのフォークダンスの浸透がすすめられ、昭和30年代頃からは小中学校の学習指導要領でフォークダンスが義務付けられるようになった。
このほかに普及の背景として、GHQの教育担当者によるフォークダンスの紹介や、YMCA等の在日アメリカ団体による普及活動があった。フォークダンスは娯楽に飢えていた人々の間に野外レクリエーションの一環として広く伝播し、政党や労働組合の青年組織化の手段のひとつとして用いられることもあったという。
人とのふれあいを求めて----いま、足りないものはなにか?
現在の日本では大学のサークルや地域の集いなどを通じてフォークダンスがさかんだが、その中心を担っているのは40代から60代の特に女性であり、年齢層と性別に偏りがあるようだ。一方、小学校や中学校でフォークダンスを行わないところも増えつつあり、フォークダンスの衰退が危ぶまれる。実際、1980年代生まれの記者も小・中学校通じてフォークダンスを踊った経験は一度もない。
しかし、「国際ダンスデーフェスティバル」では若者ばかり、とはいかないまでも若い世代の人々の参加あるいは観覧する様子が見受けられ、こうしたイベントにも決して興味がないわけではないことをうかがわせた。
いよいよダンスタイム。まさに老若男女、それぞれ違った年齢、性別、職業、出身の人々が指示に従ってペアを作る。はじめは見知らぬ人同士、互いに緊張した面持ちであるものの、「恥ずかしがらずに!」「楽しそうに!」と励まされると、次第に口元が緩み、会話も弾んでいく。参加者はほとんどがダンス未経験者らしい。戸惑いつつも、丁寧な指導を受けつつ懸命にステップを踏む。
数度の練習の後、実際に音楽に合わせて踊る。ここではもう、皆笑顔である。ほかにも、見知らぬ人同士の語らいを促進するために趣向をこらしたゲームや、大道芸のパフォーマンスで観客が一体となる空間を演出する等、ところどころ人と人とのふれあいに重きを置いたアトラクションが行われ、イベントは盛況のうちに終了ーー。
限られた時間の中での一度きりのフォークダンスで、必ずしも「いい出会い」が生まれるとは限らないだろう。参加者たちの多くもそれほど過大な期待はしていないように見受けられた。実際、少なくとも記者がインタビューした参加者では、「いい出会いがあった」という人は見あたらなっかった。こうしたイベントはすぐに効果が発揮されるというより、これからも長期かつ継続的に設けられてこそ意味を持ってくるものだと思われる。
一方、「人とのふれあい」を求めて今回のイベントに参加した人が複数いることもわかった。話したければメールか電話。パソコンやテレビの画面を介して人と会うこともできるし、ネットに接続すればいつ何時でも誰かと繋がっていることができる。しかし、今の世の中ではこうしたおびただしい量の情報が氾濫する中で「ナマの人間」同士がふれあう機会が圧倒的に少なくなっている。これはおそらくいじめやモラルの低下など、少子化に限らず様々な社会問題の一因となっているといえよう。
だからこそ、今回のようなフォークダンスを通じた「人と人とのふれあいを深める機会」が増えていくことは、確実に意義があることと感じられた。運動の趣旨にエールを送りつつ、今後の進展を期待をもって見守りたい。
コメントする