現代女性のオアシス? 手軽に "非日常" を味わえる『執事カフェ』

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執事の格好をした男性が丁寧に接客してくれるカフェ。それが通称「執事カフェ」だ。
2006年3月24日にオープンした「執事喫茶Swallowtail」(池袋)が執事カフェ第一号で、テレビや雑誌で頻繁に取り上げられている。その人気たるやすごいもので、私は以前予約なしで行ったことがあるが、その時は「すみません"お嬢様"、本日はご予約でいっぱいでございます」と断られてしまった。
女性の心を掴む執事喫茶の魅力とは何なのか。今回はちゃんと"予約をして"行ってみた。




取材させてもらったのは、六本木ベルファーレのほど近くにある「執事サロン・セバスチャン」(10月には大阪店もオープンしている)。ビルの2階にあるこのお店は、入り口もシンプルで知っている人しか入れないような「隠れ家」のよう。
「お待ちしておりました、お嬢様」と迎えてくれたのは、執事のチーフをされている藍澤さん。執事の制服はもちろん、右耳の十字架ピアスや真っ赤なポケットチーフが魅力的だった。ちなみにピアスは、店長であることのしるしだとか。


このお店の特徴を一言で言ってしまえば、「美しき異世界」だろう。ゆったりしていて、かつハイソサエティーな雰囲気を、最大限演出している。BGMはバロック音楽、椅子やテーブルはゴシック風、さりげなく置かれた調度品は中世ヨーロッパを思わせる。


もちろん、この雰囲気を演出しているのは店内の備品達だけではない。PR・マーケティング担当の坪谷さんによると、「店の価値を決めるのは、店内の雰囲気・サービスマンの質・飲食物の提供の仕方の3つです」とのこと。サービスマンの質=執事の質は一流ホテルマン並みで、普通の飲食店スタッフとは一線を隔している。
藍澤さんは、膝をついてオーダーを取り穏やかな笑顔で接してくれた。飲食物の提供のしかたも、普通の喫茶店とはかなり異なる。何種類もの紅茶の茶葉の芳醇な香りをテイスティングしてから、じっくりとオーダーすることができるのだ。しかも丁寧な執事の説明付き。紅茶やケーキはティーワゴンで運ばれ、目の前で茶を注いでくれる。


「美しき異世界」を創るための工夫はまだまだある。執事さん達はもちろん、いや、やっぱり、いわゆる"源氏名"を使っているのだが、「一般的ではないような苗字を使うようにしてるんです」と藍澤さん。例えば、「田中さん」はNGらしい。「藍澤さん」は執事らしくて「田中さん」は違うのか...ふむふむ、とても面白い。


また、執事さん達は接客スキルを磨く事に余念がない。「言葉遣いは徹底的に丁寧。謙虚でありつつ、よく気がつくこと」が執事の心構えだそうだ。新人執事の宮下さんは「執事としての心構えを実現するのはなかなか難しいけど、頑張って、いつか藍澤さんを凌ぐような執事になりたい」と意欲的だった。


ところで執事さん達は、「お嬢様」以外の呼称にも対応してくれる。実際「マダムと呼んで」と頼まれ、そう呼んだことがあるそうだ。中には異色の「校長と呼んで」とういう女性もいたとか。なるほど、「校長」の意図は測りかねるが、自分の好きな呼称で話かけてもらえば、さらにこの美しき異世界にどっぷり浸れそうだ。


メニューは基本的に紅茶とデザート。紅茶は8種類ほど用意されていて本格志向。ちなみに紅茶をセレクトすると、それに合うデザートを執事さんが教えてくれる。
「お席代」は、紅茶とデザート込みで2000円。決して手ごろな値段ではないが、この少し高めな値段設定が、非日常空間をより一層演出するのだろう。


メインのターゲットは30代女性だそうだが、実際来店している人は20代?70代女性と、客層は幅広い。「忙しい日常生活の中で、ゆったりとお茶を飲んでいただける空間を提供できたら」と坪谷さん。


先にブームとなったメイドカフェに続いて誕生した執事カフェ。どちらも、「客の願望が現実になった」という点では共通している。ひと昔前なら、「メイド(あるいは執事)さんにつかえてもらいたい」という願望を実現するには、べらぼうにお金持ちになるか、ややいかがわしいお店に行くしかなかった。しかし「メイド(執事)カフェ」は1000円台から2000円台で楽しめる。しかも昼間に。この手軽さが、近年の「オタク文化」の大衆化とも相まって、メイドカフェ・執事カフェの普及に寄与したのではないだろうか。ちなみにざっと調べたところ、いまや発祥の地の池袋のみならず、渋谷、さらに大阪、福岡などにも執事カフェは存在していた。(池袋には女性店員が男装して接客するいわば「異種・執事カフェ」もある)


そして、今回取材を通して感じた執事喫茶の魅力について言えば、それは、「非日常空間の中でその世界観に"浸りきれる"」ということだろう。ちゃんと"浸りきれる"のは、目を見て優しく接客してくれる執事さんのお陰だ。
単に紅茶を飲んでリラックスする、ということではない。想像上の、美しい異空間に"その空間の住人として存在する"ことがポイントなのだ。執事は執事として振る舞う。そして客も、「お嬢様を演じている」のだ。この優雅な演劇空間は、女性達に何を与えているのだろう?いつもと違う自分を思いきり演じることができて、かつそれを承認してくれる優しくて素敵な男性が居ることが、何かの発散もしくは穴埋めになっているのだろうか...


少なくとも私は、美しい執事さんがきちんと目を見て話してくれたことが嬉しかった。普通のカフェでかっこいいお兄さんが対応してくれても、万が一目があっても、それは一瞬だ。お嬢様体験も面白かった。かしこまってお嬢様扱いされて、それに相応しい態度を取るのは肩が凝る部分もあるにはあるが、それも「非日常」の代償と思えば心地よい痛みといえるだろう。


『執事カフェ』----並々ならぬ努力と工夫で実現された、優雅でゆったりした異空間。この甘美な非日常にハマってしまわぬよう、どうぞお気をつけて...。

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