ペットブームが叫ばれて久しい。
世知辛い時代と世間を生きる人間たちに、癒しと安らぎをくれる動物たちの人気は、上がることはあっても当面下がることはなさそうだ。
一方で、北海道・旭川市の旭山動物園のように、動物たちの元気な姿を「行動展示」という形で見せる、動物園の新たな取り組みが話題と人気を呼んでいる。
動物と人間との関係が新たな局面を迎えているようにも思える21世紀に、ある意味"異色"ともいえる動物の展示を行っている動物園がある。それが、今回取材に訪れた横浜市の市立野毛山動物園だ。
横浜の中心部からほど近くにありながら、料金は無料とあって、市民の憩いの場として長く親しまれている野毛山動物園。
その一角に展示されているのが、フタコブラクダの「つがる」だ。
推定年齢32歳。
人間でいえば90歳以上と、ラクダとしては国内最高齢とされる。6年ほど前から前足の関節炎を患い、エサを食べるとき以外はほぼ寝たきりの状態だ。
映像でご覧いただけるよう、飼育員さんからエサをもらうときには、前足を折り曲げた状態で立ち上がる。300キロの巨体を懸命に支えるつがるの姿に、痛々しさや切なさを感じる人も少なくないだろう。
通常ここまで高齢化したうえ、病に侵され、動くのもままならなくなった動物を展示するケースは多くないというが、野毛山動物園ではあえて、そんなつがるを公開し続けている。
つがるのオリの外には、
「元気なので心配しないでね」といった説明書きも掲げられている。動物園スタッフの方は、「こんなつがるの姿を見て、何か感じてくれることもあるのではないか」と話す。
つがるを見たお客さんに感想を聞くと、「かわいそう」「痛々しくもある」といった声もあったが、「あえて公開する動物園の方針に賛同する」「元気で長生きしてほしい」という声も多かった。
昨今のペットブームを持ち出すまでもなく、人に癒しをくれたり、楽しませてくれたり、自然のすごさを感じさせたりしてくれる動物は、人間にとってかけがえのない存在だ。可愛いし、できることならいつまでも元気でいて欲しい。
でもそんな動物たちも、人間と同様、必ず年を取る。病気もすれば、寝たきりにもなる。つがるのように、「要介護」になることだってある。
スタッフの方のご厚意で、実際につがるの檻の中にまで入れていただき、間近に見せていただいたのだが、一番印象に残ったのは、そんな体の不自由さよりもむしろ、つがるの生き生きとした"表情"だった。
見慣れない私たち取材陣の姿を横眼で追いながら、
「何しにきたの?」
「どうせ私を見に来たんでしょ。人気者はつらいわねぇ」
なんて言っているような表情だ。
その顔つきは、とても若々しく、セクシーですらある。
(ちなみにつがるはメスです)
関節炎で動きがままならないことなんて、全く気に留めてません、そんなことより、私は普通に生きてます!余計な心配しないでよね!って言ってるように、少なくとも記者には思えた。
年を取るのも、病気になるのも、寝たきりになるのも、それも自然の一部、自然の摂理。特別なことでも、大騒ぎするようなことでもなんでもない。
生きるとは、そういうこと。命と向き合うとは、そういうこともひっくるめてお付き合いすることに他ならない。
つがるの生気あふれる表情は、まるでそんな風に語りかけているようだった。
つがるさんにたくさんのことを教わった気がする今回の取材。皆さんは、映像を見てどうお感じになっただろうか。
※「つがるさんの方が私より1枚も2枚も上手。いつも振り回されています(笑)」とおっしゃっていた飼育員さん。
つがるさんは、飼育場やエサの状態などで気に入らないことがあると、ハッキリ&キッパリと意志表示するそうです。
それもそのはず、人間でいえば90歳の大先輩。しかもかなりの"グルメ"らしいです。
※つがるという名前は、生地である青森から名付けられました。生まれてまもなく両親と離され、はるばる横浜までやってきましたが、今では動物園でも1、2を争う人気者。ファンレターの数もトップクラスだそう。これからもその魅力を発揮し続けてほしいですね。
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