5000億円か?景観か? - 『日本橋景観問題』

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 こんにちは。2007年初めての記事が2月の、しかも後半になってしまいすいません。年明け一発目に、日本橋の景観問題について取材して参りました。

 みなさんも、この問題について一度は聞いた事があるかもしれませんが、ものすごく簡単に説明すると、江戸時代から現在まで日本の道路交通の中心である日本橋の真上に、首都高こと首都高速道路が覆いかぶさるように通っているけど、景観としてはどうなの!?という問題です。


 この日本橋の上に首都高が出来たのは1963年、東京オリンピックの直前です。江戸時代の浮世絵では、日本橋と共に富士山が描かれたりしているのですが、この首都高の開通とともに上を見上げる事が出来なくなってしまった訳です。そこで、最近日本橋付近の住民によって、橋の上を覆っている首都高速道路を地下へ通し、元の美しかった景観を復活させようという計画が持ち上がっている訳です。

 この計画は、前首相である小泉純一郎もその実現を後押しをする発言をしているのですが、予算だけで5000億から1兆円という桁違いなお金が必要であると試算されている為、石原慎太郎都知事は反対しています。景観をもとには戻したいが、莫大なお金がかかるといった難しい問題なのです。
 ここで、その問題の場所となっている日本橋についてちょっと説明を。

 日本橋の名の由来は、橋の上から太陽が昇るのがよく見えたから(日の本(もと)橋)、昔は2本の木を渡しただけの橋が架かっていたから(2本橋)など、諸説ある日本橋ですが、東京と都中央区の日本橋川にかかる橋で、日本の道路網の始点となっている場所であり、初めて橋が架かったのは1603年で、江戸幕府を開いた徳川家康が全国道路網整備計画に際し作ったものです。その後、1911(明治44)年に木橋から石橋へと架け替えられ、現在の第十九代日本橋は1999年に、国の重要文化財に指定されています。日本銀行本店や東京証券取引所が立地する日本を代表する金融街で、高島屋や三越といった老舗の商業施設も多く立地しています。観光客も訪れる日本を代表する場所なのです。そんな場所だからこそ、こういった問題が持ち上がるんですよね。

 ではそろそろ本題に戻りましょう。
日本橋景観復活賛成派の代表的な人が、早稲田大学教授で美しい景観を創る会の会長でもある伊藤滋氏で、彼は『悪い景観百景』(美しい景観を創る会著)の中でもこの日本橋を入れています。
彼の考えを簡単にまとめると、『莫大な予算がかかるが、建設から40年以上たつ首都高は、大地震の可能性も考えると、いずれ修繕費が1000億円程度必要になる。景観復活費用からその1000億円を差し引いて考え、残りの部分は民間にも費用の負担を協力してもらえば可能である。知名度の高い日本橋の景観問題が改善されれば、大阪や福岡などの他の都市の景観再生への波及効果も大きい』といったものです。
逆に、反対派の代表的な人が、建築家で東北大学助教授の五十嵐太郎氏で、彼の考えをかんたんにまとめると、『首都高速移設の推進論者は、工事の目的として、江戸のにぎわいや日本橋という名所の風情を再現させることを掲げているが、本当に伝統的な景観は復活するのか?そもそもいつの時代に戻そうとしているのか? 江戸時代の商人が行き交うにぎわいなのか、それとも明治末に出現する威風堂々とした洋風建築の街並みなのか?むしろ、首都高こそが東京的な構築物なのではないか。お金のかけ過ぎと批判される東京武道館(74億円)や、都庁舎(1,569億円)、東京ビッグサイト(1,813億円)などの施設の数倍、もしくは数十倍の費用は問題ではないのか』といったものです。

 確かに、両者のいう事はそれぞれ正しい事かもしれませんが、工事費用の額が額だけに、おいそれと決断出来る問題ではないでしょう。東京都の財政状況も芳しくないうえ、借金王国である日本にとってこれだけの金額を捻出できるか甚だ怪しいもんです。しかし、例えばより工事費用のかからない方法や、多くの人が納得する形などを見つける事が出来るのなら、やるという選択肢もあるのかもしれません。

 ここらで、ちょっと日本各地に存在する景観問題を抱える場所を紹介してみたいと思います。
1つ目は、広島の原爆ドームとその近くにある高層マンションとの不釣り合いさについて。原子爆弾や、戦争の悲惨さを訴える為の施設である原爆ドームと、その近くに多数存在する高層マンション群の景観の点から見たバランスの問題。確かに、おかしな光景といえばおかしな光景ですね。
2つ目は、京都の花街祇園にある風俗店について。江戸末期には七百軒を超えるお茶屋があり、昭和五十一年に「伝統的建造物群保存地区」に指定され、簾と千本格子が美しい伝統的な町家造の家並みが残るこの地域ですが、最近風俗店が増えてきているらしいです。考えてみればお茶屋も風俗店も同じ男性の遊び場、などと理屈をこねてはみたものの、やっぱり場違いの感はぬぐえないですね。

 今回は例としてあげたのは2つだけですが、ちょっと調べてみただけでも神奈川県鎌倉の、安養院の山門前に建てられようとしているマンション建設問題や、海外だとドイツのケルン大聖堂の近隣の超高層ビル建設問題など、景観問題を抱える場所が多くある事が分かりました。しかし、様々な景観問題と比較してみても、日本橋の景観問題は費用の面から見ても相当難解な問題であることも分かりました。

 最後に、今回現地である日本橋に赴いての僕の個人的な感想と、道行く通行人の方達の意見を交えて書きたいと思います。
実は実際に日本橋とそれに覆いかぶさる首都高の光景を見るまでは僕は首都高埋設賛成派だったんです。でも、地下鉄の出口を出て、初めに思った事は『これは、景観問題としてあげる程のものか?』でした。首都高がメチャクチャ無機質に作られているわけでもなければ日本橋が純和風というわけでもない。むしろ、僕はこの日本橋と首都高の交差に美しさを感じました(前で紹介した五十嵐太郎氏も同じような事を言っています)。大の大人達が、5000億円以上という費用をかけるか、かけないかと議論するほどのものではないと感じました。

 通行人の方達に意見を聞くと、首都高埋設賛成派、反対派、だいたい半々くらいでしたが、賛成派の人のなかでも、『そんな巨額な費用どっから出るんだよ!』という意見の方もいました。また、生まれた時からこの姿の日本橋しか見た事無いので、別に何にも思わないといった方も何人かいました。

 そんな中一番印象的で、かつ数人の方がおっしゃっていた意見は、『僕(私)はここの人間じゃないからよく分からない』というものでした。確かに、人口が集中しているとはいえ、その多くが地方から上京してきている人たちの集まりである東京の、しかも都心のど真ん中の日本橋ですから、そういう意見が出るのも当たり前かな、と思いました。

 案外、躍起になって賛成反対の議論をしているのは、有識者と言われる一部の方達だけで、むしろそこで働いている人たちは無関心なのかもしれませんね。それが、いかにも東京らしいっちゃ東京らしいですが。

 この記事を読んで下さった皆さんはこの問題、どうお考えですか?

 それでは、今回はこの辺りで。


P.S インタビューに協力して下さった皆さん、ありがとうございました。

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