2011年、TOKYOに新たなランドマークが登場!
同年7月24日の地上アナログ放送終了にあわせて、東武伊勢崎線曳舟駅前の東武鉄道貨物駅跡地に、高さ610Mを誇る「新東京タワー」が、東武鉄道が全額出資した事業会社会社「新東京タワー株式会社」を事業主として建設されます。
アナログ放送終了とともに地デジに一本化され、旧来の東京タワーでは高さが足りないために、以前から候補地の選定が行われていましたが、周辺に高層ビルが少なく電波障害がおきにくいという理由から、秋葉原や池袋など他の候補地を押さえて、今年四月に墨田区曳舟エリアに正式決定されました。
そのような理由から、高さは旧東京タワーの約2倍の超高層タワーとなり、現在世界一のカナダ(トロント)のCSタワー(553M)を超えて中国の広州に2009年完成予定の広州テレビタワーと並びます。ただ、2010年完成予定のモスクワのシティタワーに越されてしまうようで、惜しくも「世界一」のタワーにはなれないのですが、完成すれば新東京タワーは日本一の高さになります。
新東京タワーは単に、放送上の必要から建設されたものでなく、タワー周辺にショッピングセンターを併設するなどして、あまり再開発の進まない下町エリアに観光客を呼び寄せることによる経済の起爆剤としても地元の方の期待を呼んでいます。
さて、今回取材したイベントは、それを心待ちにする地元の方々が設立した「平成光勧進プロジェクト実行委員会」が企画したもので、新東京タワーと同じ高さのタワーをスポットライトの光で作ってみようというものです。
610Mのタワーが地元に出来るといってもぴんとこない・・きっかけは、実際に町からどんな感じに見えるのだろうかという疑問でした。そこで自分たちで資金を出し合い、新タワー着工より少し早く、手作りのタワーを完成させたのです。本番前のリハーサル照射の段階から、タワーの付け根あたり、つまり極く地元の方たちは店から顔を出し、ついに始まったか、と楽しそうに見物していました。まるでお祭りのような雰囲気で、タワー建設が地元の方たちには受け入れられているという印象をもちました。
八時には照射が始まりました。天気もよく、私の居た隅田川対岸の浅草からもはっきりとタワーが見えました。浅草の方たちも今回のイベントを知っていたようで、隅田公園には、多くの見物客が集まり、高くそびえる光タワーに4年後の新東京タワー完成への期待を寄せていました。
ただ、この新タワーには利点だけではなく、いくつかの問題点もあるのです。
まず第一に、併設される大ショッピングセンターが地元の商店街の経営を悪化させるのではないかという問題。その反面、先に記したように、これが地域の経済の呼び水になる、という意見もあるため簡単には予測が付かない問題であります。
さらに電波発信上の問題。現在旧東京タワーから発信している世帯の視聴者は全てアンテナの向きを変えなければならないこと。これは、特に高齢者の方にとっては危険な作業となり、金銭的な負担も要求してしまうものです。さらに、仮に電波障害があった際にその対策費用の負担者が明確でないことも挙げられます。特に、山梨県は地元局との混信により電波障害となる危険性があります。
また、610Mの超高層タワーが周囲に与える圧迫感も懸念されており、これに対してタワー側は、建築家の安藤忠雄氏と彫刻家の澄川喜一氏の監修による日本刀を意識したデザインでなるべく「江戸色」を出し、下町の心をつかもうと努力しています。さらに地盤が緩い曳舟地域で大地震が起こった際の倒壊も心配されており、これに対してもタワー側は日本古来の五重塔を参考にした新たな耐震法で対応していると説明しています。
このように、タワー側も、「地域に愛される」タワーを目指し、問題解決に励んでいますが、そもそも、新タワーが不要ではないかという意見も以前からありました。現時点で地デジ放送がきちんと旧東京タワーから放送されており、さらに今年9月末に旧タワーがアンテナを100Mほど高くすると発表したことにより新旧タワーの競争は激しさを増しています。新タワーがデジタル放送を開始すれば旧タワーの電波放送事業はなくなり、現在の収入源の5割近くが失われてしまうと言われていて、旧タワーも放送局を引き止めるため、放送局の使用料を現行価格以下に抑えるなど対抗策に必死です。
ただ在京テレビ局6社は、新タワー使用で揺るがないようで、この旧タワーの必死の工作も、難航している新タワーとの使用料交渉に利用するカードに使われるようです。(朝日新聞による)
新タワー完成後の旧タワーの行方は気になるところですが、現在は放送局の利用料のほかに、観光や不動産からも収入を得ており、最近は小説などにより特に観光客が増えてきているというので、すぐに経営が悪化するということはないようです。ただ、同じ都内に高さが倍の新タワーが出来るということで観光客が減少してしまう可能性はあるかもしれません。
さて、実際に地元の方たちはどう思っているのか。
向島にある喫茶店「こぐま」の店員の方にお話を伺ってきました。突然おじゃましたにもかかわらず丁寧に答えていただきました。この「こぐま」はアートに寄る地域活性化を目指して昨年10月にオープンしたアート・カフェであり、古い長屋を再利用した木目調の店内は雰囲気がよく、落ち着きます。
店員の方の話によると、新東京タワーに対する地元の方たちの意見には、確かに「圧迫感がある」「地盤が緩いので地震による倒壊が心配」「デザインコンセプトが説明不足」などの反対意見もありますが、おおむね歓迎ムードのようです。これでこの地域の知名度が上がり、観光客も増えることを期待しており、反対に、この「新タワー景気」に取り残されることを心配する声もあるようです。
以上、私が取材したところによると地元の方たちはおおむね歓迎しているものの、ただまだまだ解決すべき問題がのこされており、今後いっそう地元の方たちの支持を得るには、これからタワーがきちんと観光客を集められるかどうかが重要なポイントになるようです。
集客見込みが甘いとの指摘もあり、実際「タワー系」の観光スポットは一番の売りが展望台のため、「リピート客の少なさ」が悩みの種となっているケースも多いそうです。新東京タワーがリピーターを集め、遠く海外からの観光客を集められるかどうかはまだまだ未知数。地元の方たちのためにも是非、頑張って下町エリアを盛り上げてほしいものです。
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