~ 前篇からの続き ~
「シモキタハロウィン2009」のような地域活性化のための「町おこし」は、現在日本の各地で行われています。ただ「町おこし」という言葉で想起されるバブル期の自治体主導によるものに比べると、より小規模で草の根的にスタートする傾向にあるようです。
「町おこし」の軸となるものの代表格といえば「食」でしょう。「富士宮焼きそば」「八戸せんべい汁」「浜松餃子」......と、町おこしに成功したB級グルメを上げていくと枚挙に暇がありません。昔からあった地域独特の料理、最近その地域で広まった料理、町おこしのために作られた料理など、地域によって様々な経緯がありますがたいていの場合は何か特定の一つのメニューが中心になっていますよね。
そんな中で特徴的なのは「京都激辛商店街」です。その名のとおり激辛な食べ物にフィーチャーした、京都府向日(むこう)市での町おこしです。JR向日町駅・阪急東向日町駅周辺の激辛商店街加盟店舗が激辛メニューを出すというもので、カレー・麺類はもちろんのこと、スイーツ・和菓子などもあります。今年7月に設立されたばかりですが、加盟店はどんどん増えてメニューの数もかなり豊富になっています。
なぜこの向日市で激辛なのかは分かりませんが、特定のメニューではなく「激辛」というキーワードを利用するところに、この町おこしの戦略性を感じます。なにせ特定のメニューで町おこしをしようとすると、その特定の業種しか参加できませんし、東京・月島のもんじゃ焼きのように同業者が集まり過当競争を繰り広げることになります。
その点「激辛」をキーワードにすえた町おこしでは、飲食店であればちょっと無理をすれば業態を変えることなく参加できるのです。(ちょっと無理をするというのも、経営面ではなくメニューそのもののこと) また、さまざまなお店が参加しているとあって、食べ歩きなんかもできそうです。
まだ始まったばかりの京都激辛商店街ですが、今後の発展も非常に興味深いです。
食のほかには、昔から文豪の故郷や小説の舞台を売り出すというスタイルもあります。ただ、最近では何も文学だけではなくマンガやアニメも町おこしのテーマになるようです。
有名なところでは鳥取県境港市大正町での「水木しげるロード」でしょう。漫画家水木しげる氏の出身地境港市の町並みに120体の妖怪などのブロンズ像が建てられ、観光名所となりました。
新潟市には「水島新司マンガストリート」があり、「ドカベン」「あぶさん」の人気キャラクターの銅像が建てられています。さらにキャラクターがペイントされた「ドカベン号」「犬夜叉号」という市内循環観光バスが走っており、観光客に利用されています。
漫画家の出身地にマンガキャラクターの銅像が建てられる様子は、歌人の故郷に建てられた歌碑のようですが、これらはどちらかというとより大規模な町おこしといった趣です。
一方、違ったあり方を示してくれるのが埼玉県鷲宮町です。ピンとくる方もいるでしょうが、鷲宮町は「らき☆すた」という女子高生4人の生活を中心としたほのぼの4コママンガと同名の深夜アニメの舞台だったのです。深夜アニメなので視聴者は少ないと思われがちですが、熱狂的なファンも少なくなく、多くの人が鷲宮町を訪れました。オタクによって「聖地巡礼」と呼ばれる行為です。
アニメの放送を知らなかった地域住民が多いため、はじめは気味悪がられた「聖地巡礼」ですが、鷲宮商工会の若手を中心に町おこしに利用されるようになります。オリジナルグッズの販売やイベントなどが行われ、さらに多くのファンが現地を訪れました。2007年のTV放送から2年たった今年8月にも、「萌フェス IN 鷲宮2009」が開催され、多くのファンと痛車(見ていて痛々しいくらいキャラクターがプリントされた自動車)が集いました。 また毎年恒例の祭「土師祭(はじさい)」では、「らき☆すた」特製のお神輿も登場しました。
この鷲宮町、実は2010年3月には他の市町村と合併することが決まっています。鷲宮町としての最後の盛り上がりを「らき☆すた」にかける地域住民の思いが感じられます。
これらの町おこしの多くは少人数から始まったものがほとんどです。「シモキタハロウィン」も商工会や商店街という規模よりもさらに小さな有志団体によって開催されました。少人数で行うことにより、スピーディーに企画・実行しやすいというメリットがあるようです。
しかし、その一方でイベントが町の一部の人によって行われたという感も否めません。多くの参加者は行きつけの飲食店でイベントを知ったという人たちで、そのコミュニティを中心に楽しんでいたようでした。
たくさんの人が参加し、駅前や道路の混雑・騒音を巻き起こしてしまうものだけに、今後はもっと輪を広げたかたちで開催されると、町全体への貢献度もいっそう高まりそうです。
とは言え、初回での開催で500人の参加者が集まり話題性もあったため、来年はより様々な人の参加が予想されます。いずれ、有志が町を盛り上げるイベントから、町全体が盛り上がるイベントへと進化していくことでしょう。
大盤振る舞いなフリードリンクパスも、筆者のように初めてのお店が苦手な人には大助かりです。よく行くチェーンの居酒屋についつい行ってしまう人が、初めてのお店に入っていく良いきっかけになりそうです。
不況の影響で外食産業が冷え込む中、こういった取り組みが町全体でお客さんを掴んでいく力になるのではないでしょうか。
加えて今回の有志の皆さんからは、小田急線の地下化工事や取り沙汰されている「再開発」で変わっていくかもしれない下北沢が文化の発信地であり続けようとする熱い思いもひしと感じられました。
シモキタハロウィンと下北沢の今後の発展に期待です。
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