未来の農家が大集合!? 『全国農業高校収穫祭』

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 1121日、三連休の初日で賑わう東京・吉祥寺通り。
駅から北上し、左側に見えてくる建物が東急百貨店なのだが、今回の話題の中心はここではなくその少し奥、いわゆる「東急裏」と呼ばれるお洒落な地域の入り口に当たる東急百貨店北側広場である。

 ビルのやや広い軒が秋の陽光を遮って生まれた薄暗い空間に元気の良い声が響き、道行く人を呼び止める。寒さもやや温む午後1時だったが、その空間が醸し出す雰囲気は明け方の市場のようだった。
 
「朝採り大根いかがですかー!」
「大根1本100円!長ネギ一袋150円です!」



 声を張り上げて野菜を売るのは商店街の八百屋でもスーパーの店員でもない。制服或いはジャージに身を包んだ農業高校の高校生である。全国から集まった十六都府県三十三校のテントが北側広場から西側広場まで軒を連ね、自分達が育て或いは作った品々を笑顔で売り込んでいる。

 
  「全国農業高校収穫祭2009
 
  この催しは毎日新聞社と全国農業高校校長協会の主催で112122日の土曜日曜を利用して行われた。「環境共生」と「農林水産業の活性化・食料の安心安全向上」を目指して「農and食」プロジェクトを展開している毎日新聞社は、全国の農業高校をPRすることで未来の農業の担い手を応援する狙いだ。
全国農業高校校長協会の花田副理事長(都立農芸高校校長)も「多くの人に農業高校を知って貰えれば」と意気込む。三連休の初日と言うことで会場は多くの来場者で賑わい、予想を越える人出に花田副理事長も「成功と言って良いと思います」と顔を綻(ほころ)ばせた。
 
  さて、約50種の品物が会場では販売されていたのだが、ここでいくつか目についた品物を紹介したい。まず、静岡農業(静岡県)の「ミカンの缶詰(90円)」と相原高校(神奈川県)の「豚まん(120)」である。
 
  静岡農業は生徒が育てた温州ミカンをシロップ漬に加工し、校章の入ったラベルを巻いて缶詰に仕上げた。ちなみに読者の皆さんはミカンの缶詰をどう作るのかご存じだろうか?外皮を剥いたミカンを一つ一つほぐし白い筋を取り除くまでは普通に食べる場合と変わらないが、残った薄い内皮は塩酸を用いて溶かすのだそうだ。この工程を経て初めて、あの綺麗なミカンの実の姿が現れるのである。作物の生育だけでなく、工業的・化学的なプロセスまで農業高校は扱うのである。なかなかに奥が深い。
 
  相原高校は「新宿 中村屋」との産学連携によって市販品にも劣らない豚まんを作ってきた。使用されている豚肉は同校畜産科学科が育てたものだが、その飼料は同社工場の食品廃棄物を小田急フードエコロジーセンターが加工したものを利用している。食料資源のリサイクルにチャレンジすると共に味にもこだわり、素材の味を活かした塩ベースの餡を中村屋と共同で開発したのだという。豚肉と野菜の甘みが引き出されていると購入者にも好評で、11月の寒さが後押しする中、次々と売れて行った。
 
  また、上記二校のような珍しい品物を扱っていた訳ではないものの客足が途切れなかったのが、国産大豆の味噌(400)を販売していた清水高校(千葉県)だった。

元気な声で客を呼び止め、テキパキとした動作と輝くような笑顔で対応し、そして売れた時には盛大な喜びの拍手が起こる。清水高校の味噌を購入した数名にお話を伺ったのだが
「生徒さん達の喜びが伝わってきて、何だかこっちまで嬉しくなってしまった」
「安かったし、応援出来たようで嬉しい」
とのこと。消費者の心を掴む上で商品の質や価格も勿論重要だが、売り方という部分を忘れてはいけないなと感じさせられた。

取材に応じてくれた生徒は「ピザにしても美味しいですし、ご飯に混ぜて食べるのも良いですよ」と多彩なレシピを紹介してくれるとともに、老朽化した施設が解体されるため味噌は今年が最後であるという話も聞かせてくれた。話を聞き、また味見をさせて貰った記者は買わずにはいられない気持ちになり、最後から七番目の味噌を持ち帰り味噌汁にして頂いた。豆の旨味と深みのある香りが口の中で広がるたび、最後の一つを売り切った瞬間の生徒達の笑顔がよみがえり、再び幸せな気持ちにさせて貰った。
 
  この三校の他には、新鮮な野菜や鶏卵、手作りのジャムなどが飛ぶように売れていたのだが一方で意外な苦戦を強いられていたのが多数の高校が持ち寄り品質を競っていた米である。

  長岡農業(新潟県)は名産地・新潟からやってきただけあり「減農薬栽培の安全性と食味には自信がある」と語り、軒を並べる杉戸農業(埼玉県)は埼玉県で生まれた新品種「彩のかがやき」に「地元でも評判が良い。コシヒカリにも負けない」と自信を見せたが、売れ行きははかばかしくなかった。価格の方も長岡農業のコシヒカリは3キロ1500円、杉戸農業の彩のかがやきは2キロ600円と市販品よりかなり安いのだが、どうしてだろうか?

話を伺った来場者からは「重くて持ち帰れない」との声が大きかった。両校とも自校で販売した際は売れ行き好調だったということだが、通りすがりの来場者が多数を占めるこの収穫祭では厳しかったのかもしれない。
 
  少し話が広がってしまうが、日本の消費者は米に厳しいなと常々思う。日々品種改良と栽培技術の向上が図られ、記者の短い人生経験の中でも米の食味は確実に高まっている。それでも流通量は伸びず減反は進む。国産野菜への関心の高さは強く感じるが、高品質の国産米については「あって当たり前」と言わんばかりの姿勢が目立つように思う。多少重いからと言って、低価格で高品質の米に飛び付かない消費者の姿がそれを象徴していたように感じた。
 
  6月にローマで行われていた食料サミットでは穀物の不足と供給の不安定が大きなテーマとなっていた。日本を始め主要8カ国の首脳はホスト国イタリアのベルルスコーニ首相を除いて出席しなかった為、大きなニュースにはならなかったが国連食糧農業機関が世界の飢餓人口を10億人超と発表するなどショッキングな報告が相次いだ。

  当然ながら世界の食料不足は他人事ではない。近年ガソリンの代替燃料として注目されるバイオエタノールは原料としてトウモロコシやサトウキビが利用されるのだが、これによってトウモロコシの需要が拡大し、また小麦などの穀物からサトウキビへの転作が欧米で進んだ。食料として流通する穀物の量が減少したことによる価格急騰は記憶に新しいことと思う。日本人はパンの値段が上がることに不満を漏らしていたが、危機感としては大きくなかった。何故なら「いざとなったら米を食べれば良い」と多くの人が思っているからではないだろうか。
 
  「国産のものを食べるのは当然」
  「多少高くても国産品を応援しなくちゃ」
と国産野菜について頼もしいコメントをしてくれる来場者も多かったが、彼らは果たして米を応援してくれているだろうか。輸入小麦から作られたパンや麺を食べて米を敬遠することは間接的だが日本の米農家を圧迫することになる。日本の食料自給率が40%程度にとどまり食料自給の必要性が叫ばれる今日、安価な外国産ではなくやや割高ながら国産野菜を選択するというのは一つの方法だが、おいしい米をこよなく愛する記者は日本の米も応援したいと思う。頑張れ米農家。
 
  米を例に挙げて説明したが、同様に日本の農業の多くの分野が順風満帆とは言い難い状況にある。後継者問題などはかねて指摘されてきた問題だが、解決の糸口はなかなか見つからない。新政権の中心を担う民主党は「所得補償制度」を掲げて国内農家の大半を占める小規模農家を救済しようとしているが、「農村へ金をバラまく政策」との批判や「そんな財源がどこにあるのか」と言った批判も聞こえてくる。

  来場者の方々にご協力いただき、この「所得補償制度」についても意見を伺った。多くの方が強い危機感を抱いているようで「農家を助ける政策は必要」との意見が大勢を占めたのだが、同時に「勿論やり方に寄るけれど」と付け足すところが、補助金といったものに対してすっかり懐疑的になった市民の心情を良く表しているように思える。
ちなみにアメリカやEUでは小麦などの輸出用穀物の生産農家には大量の補助金が付き、彼らが生産する穀物の国際競争力を高めている。欧米の資本に支えられた穀物、格安の人件費により安価に供給される中国野菜、これらに対抗する為にはやはり国からの補助が必要なのかもしれない。
 
  さて、上記の通りこの国の農業の未来は明るいと断言できる状況ではないが、それ故に農業の未来を担うことを期待される農業高校の生徒達が将来をどのように考えているのかは大いに興味があるところだ。記者も「自分が日本の農業を支える」との力強いコメントを一市民として期待しながらインタビューを試みた。
 
  「看護学校に進みます」
  「夢は歌手です」
  「仕事にするのはちょっと・・・」
  「分からない」
  「一部上場企業に就職が決まりました」
 
農業高校=農業へ。その固定観念は見事に打ち砕かれた。勿論地域差はあるだろうが農芸高校(東京都)の先生の話では大学進学者、専門学校への進学、企業への就職がおよそ三分の一ずつだと言う。農業に興味を持って入学してくる生徒は多いが就農するとなるとハードルは高いのだそうだ。農業の未来についてショックを隠せずにいる記者に、前述の花田副理事長は語る。
 
「農業高校で学ぶ『食と農』の知識は、生産者だけが知っていれば良いことではない。全ての人が関わっていることだから、『食と農』について知識を持つ人の裾野を広げていきたい。それが農業高校の役割だ。」
 
納得である。多くの人が農業を知り、食を知り、考える力を持てばより良い農業政策や食糧政策が選ばれることだろうし、良い作物や商品が正しく評価されることにも繋がるだろう。我々消費者もより賢くなるべく学んでいかなければならないのだ。

とは言え、若いうちから農業を学んだ彼らから未来の農家が出てきて欲しいと思うのも正直な気持ちである。記者は会場を探し回り、「我こそは」という生徒を見つけた。農芸高校(東京都)に通う彼は、ややはにかみながらも笑顔でインタビューに答えてくれた。
 
--今日売ってるもので作ったものはありますか?
「食品加工科なんでジャムを作りました。もう売り切れです」
 
--将来は何を?やはり農業を?
「はい、農業です」
 
--どんな農家に、みたいなビジョンはありますか?
「自給自足しながら作ったものを加工して売るような。食品加工科なんで」
 
--ご両親は反対しない?
「それは全然大丈夫です。ただ土地とか買わないと・・」
 
--都会でバリバリ稼ぎたいとかは思わない?
「そういう人は他にたくさんいるんで」
 
控え目なコメントではあるが、キラキラと輝く目には農業への夢が映っているように感じられた。
彼が夢を叶えて就農する頃、日本は農家にとってより良い国になっているであろうか。それは我々消費者一人一人にかかっているのかもしれない。そう思うと食事へ臨む気持ちも引き締まるというものではないだろうか?一口一口を、農家の方への感謝と期待を込めて味わいと思う。

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