スカイツリーは東京を変える? - 下町を照らす ' 世界一 '

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東京の新たな名所として、人気と注目度が急上昇中の「東京スカイツリー」。

今しか見られない建設中の姿を、自らの目とカメラにしかと焼き付けようと取材に赴いた。


といっても、いきなり現場に直行するのもつまらないと思い、浅草から徒歩で向かうことにした。



東京を代表する観光地のひとつである浅草。

何度も来たことのある人は別にしても、地方や海外からスカイツリーを訪れる観光客は、同時に浅草見物もするケースが多いだろう。両者の間の距離感を体感しておくのも悪くはなさそうだ。


花やしき周辺や寿司屋通りなど、下町情緒漂う浅草の街頭からも、町並みの向こうににょきっと顔を出すスカイツリーを望むことができる。

交番で大まかな道順を確認し、いざ出発。地図もなく不案内だが、遠くに見えるスカイツリーに向かって進めば何とかなるだろう。


浅草の名所・雷門を過ぎて隅田川にかかる吾妻橋へ。橋の上を吹き抜ける風が心地よい。

屋上のキント雲に似たオブジェで有名なアサヒビール本社や墨田区役所などとならんでそびえ立つスカイツリー。

江戸文化を象徴する浅草・隅田川から眺める現代建築の競演は、ここでしか見られない21世紀のパノラマだ。


吾妻橋を渡り、スカイツリーの見える左方向へ進む。

ここまで来ると浅草の観光地的雰囲気もすっかり消え、少しばかりうら寂れた下町の路地の先にスカイツリーが見える。

総工費およそ650億円、商業施設などの周辺整備をあわせるとおよそ1350億円というスカイツリーの足下には、不況の中でたくましく生きる庶民の暮らしがある。


スカイツリーの完成はおよそ2年後の2012年春。

自立式の電波塔として世界一高い634メートルになる予定だ。

地震に強い五重塔の構造を参考にした「心柱制振」という技術や、ライトアップには環境に優しいLED照明が使用されることなどはよく知られている。


周辺には地上31階建てのオフィスビルや7階建ての商業施設、さらにプラネタリウムをメインとした最新型のドームシアターや水族館なども併設され、お膝元の墨田区は、開業後1年間の経済波及効果を880億円、新たに4600人の雇用を生むと試算している。

ツリーと周辺施設で年間2500万人を集客し、売り上げ300億円を見込んでいて、「ライバルは渋谷や表参道」(墨田区)と意気込んでいるようだ。


地元自治体だけでなく、流通や飲食関連企業の期待も否応なく高まる。

東京・丸の内の「新丸の内ビルディング」や六本木の「東京ミッドタウン」にも匹敵する商圏が誕生するだろうという声や、「国内最大級の観光地になる」と見る向きもある。


ツリーに向かってさらに歩を進める。

下町の地味で灰色な空に、現代的で巨大な建造物が立ち上がっている。

隅田川の支流(北十間川)にかかる橋の上まで来たとき、ツリーの全貌が出現した。

川に浮かぶ屋形船。線路を走る東武線。そして、現代建築技術の粋を結集したスカイツリー。

三者が織り成す見たこともないような光景が、東京の東側の町に新たな時代の到来を告げているように感じられた。


思えば、高度成長期以降、東京は西へ西へと拡大を続けてきた。

新宿、渋谷。青山、表参道、代官山。

時代の先端を走り、いわゆる'お洒落なスポット'として脚光を浴びるのは、決まって西側の街だった。

ところが、近年は浅草に代表される江戸や庶民の文化が見直され、落語や歌舞伎もブームの渦中にある。

一方で、吉祥寺や有楽町からは時代を彩ってきた百貨店が姿を消し、隆盛を誇ったブランドショップも往時の存在感を失っている。


West End から、East Endへ。

スカイツリーはそんな時代の転換点となるのかもしれない。

ツリーを目標にせっせと歩きながら、そんな考えが頭に浮かんでくる。


いよいよスカイツリーの根元、業平橋駅(東武伊勢崎線)付近に到着。

真下から見上げると、その威容に圧倒される。

これでまだおよそ半分の高さというのだから、完成時の迫力は想像もつかない。


平日の昼間だが、スカイツリーの見物や写真撮影に訪れた方の姿が多く見える。

"スカイツリー景気"はいかほどかと、駅周辺のお店の方に話を伺ったが、

「いや~まだぜんぜん」

「スカイツリー自体は良いかもしれないけど、私たちは変わらないのでは?」

といった反応が多かった。


景気回復や街の活性化への期待感を想定した記者に対し、下町の人々の意外ともいえる反応。

取材時(平成22年2月19日)はまだ東京タワーの高さを超える前で、マスコミの注目度も訪れる人の数も控えめだったせいもあるかもしれない。

しかしそれ以上に、降ってわいたスカイツリーによって急に光が当てられることへの戸惑いや、下町とともに生きてきた人々の誇り高い'控えめさ'があるように記者には感じられた。


もっといえば、「今まで見向きもされなかったのに、急に何なの?」という感覚だ。

無理もない。「業平橋」。これをきちんと読める人は果たしてどれくらいいるだろう。

スカイツリーの最寄り駅のひとつとして知られた今では読めるかもしれないが、それ以前はどうだったろう。


でもこれから先、スカイツリー開業までの時間が、そんな下町の人々の受け止め方も少しずつ変えていくのではないだろうか。

いま、浅草などに象徴される庶民文化が注目を浴びているのは、バブル崩壊から長い不況の時代を経て、人々のものの見方や考え方が成熟し、'地に足がついてきた'ことと無縁ではないだろう。

無理してブランド品を身につけて、背伸びをしてつま先立ちで生きることに飽きもしたし、疲れもした。

そんな人々の視線が、東京のEast Endに向かっている。

そう、下町はいま、日陰の存在どころか、旬なのだ。


まさにそんな絶妙のタイミングで誕生しようとしている東京スカイツリー。

下町に新たな時代の到来を告げ、東京という街のパラダイムもシフトしうる存在として、今後も目が離せない。

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