パントマイムにアクロバット、ジャグリングにヨーヨーに、中国風の雑技団まで。
いま、東京都内各地で、めくるめく大道芸の妙技が気軽に楽しめる。
芸を披露するのは東京都公認の「ヘブンアーティスト」たちだ。
この日(平成22年2月19日(金))訪れたのは、多くのヘブンアーティストたちが
集う東京・台東区の上野公園。
この日も10組前後の大道芸人たちが公園内の各所で自慢の芸を披露した。
まだ人もまばらな午前11時。
上野公園のシンボル、西郷隆盛像の前でパフォーマンスを始めたのは、
'人形振り'の「Performer Parts」さん。
人形振りとは耳慣れない方も多いかもしれないが、
パントマイムやブレイクダンスの動きを非常にゆっくりにしたようなパフォーマンス。
黒を基調にした衣装と無表情な仮面、神秘的な音楽にあわせた
まさしく人形のような動きが、辺り一面に幻想的かつ少し不気味な空気を漂わせる。
見つめるほどに、人間なのか?人形なのか?
そんな錯覚に陥る見事な芸だ。
聞けばPerformer Partsさん、この道25年の大ベテラン。
ニューヨークやヨーロッパ各地でもパフォーマンスを披露したプロフェッショナルで、10代からこの道一本でやってきたというから、まさに筋金入りだ。
ヘブンアーティストになるには毎年1回、東京都の公開審査がある。
2009年度には376組が応募し、合格者はわずか24組。
合格率およそ6%という狭き門で、各人の芸のレベルにも一定の'保証'がある。
Performer Partsさんいわく、
ダンス系の芸は特に競争が激しいとのことだが、すんなり審査を通過。
これも長年培った芸のクオリティがなせる技だろう。
大道芸人というと、好きでやっているけどなかなか食っていけない・・
といったイメージを抱きがちだが、
Performer Partsさんの素顔は妻と1児を愛するちゃんとした(?)パパ。
記者が、
「将来お子さんが『お父さんの世界に進みたい』って言ったらどうします?」
と聞くと、
「それはうれしい」と少し照れながらもニッコリ。
自らの信じる道をまっすぐに歩みながら、同時に家庭人としても幸せをつかむ。
ある意味、非常に現代的な"ドリームス・カム・トゥルー"な彼がまぶしく見えた。
記者はさらに上野公園の中心部へと進む。
聞こえてきたのは、木琴のような軽やかでリズミカルな音楽。
女性2人組のヘブンアーティスト「ナツ&カヨ」の演奏だ。
演奏するのは、木琴ならぬ'マリンバ'。
木琴をより大がかりにしたような打楽器だ。
複数のスティックを同時に操りながら、高速で鍵盤を叩くナツさんとカヨさん。
ぴったり息の合った演奏に、通行人も思わず足を止める。
これも、きのう今日のパフォーマーにはできない超絶技巧だ。
もともと桐朋学園という東京の音楽大学の同窓生だったというお2人。
クラシックはもちろん、ジャズやラテン、果てはアフリカ音楽まで弾きこなすという。
さすがは名門音大のご出身だ。
演奏の合間に話を伺うと、親しみやすい笑顔で応えてくれた。
「もっとたくさんの人にマリンバの魅力を知ってもらいたい」
とナツさん。
素敵な笑顔の下にある、アーティストとしての強い決意と信念が垣間見えたような気がした。
この日取材させていただいたもう1人のヘブンアーティストが、
'バルーン・パフォーマンス'のMotoさん。
ピエロのようなド派手な衣装で、細長い風船をふくらましては
あっと言う間にさまざまな物や動物、キャラクターなどに変身させる。
ウサギに拳銃にミッキーマウスに目玉おやじ。
手のひらサイズの小さいものから、いくつものバルーンを組み合わせた大作まで。
完成品は、観客にプレゼント。
出来立てほやほやのバルーンを受け取った子どもたちや女子高生は大喜びだ。
風船だけでなく、時にはなぜかゴム手袋も膨らませるMotoさん。
真赤な顔をして息を吹き込む姿に、脳の血管が切れるのではないかとはらはらする。
だがMotoさんの真骨頂はここからだ。
様々な形のバルーンを作っては、観客とあれこれと掛け合いながら次々と笑いを取っていく。
「アーティストというより、『芸人』と呼ばれたい」というのもうなずける受けっぷりだ。
衣装を脱いだMotoさんは一見、いわゆる普通のおじさん。
この日の大道芸人の中ではおそらく最高齢で、芸歴もかなりかと思いきや、
もとはずぶの素人。大道芸は様々な職業を経て始めたという。
たくさんの笑顔に囲まれるこの仕事が大好きだというMotoさん。
「いつかオンリーワンの大道芸人として認められたい」
と、キラキラした青年の瞳でオヤジの夢を語ってくれた。
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ニューヨーク市をモデルに2002年に制度をスタートして以来、
年ごとに審査への応募者が増加している東京都のヘブンアーティスト。
都民や観光客に楽しみや興奮、潤い・癒しを提供する大道芸人たちの
人気と注目度も高まっている。
公園や駅などの既存資産を有効活用し、芸を披露する側も、観る側も
ハッピーというウィン-ウィンな施策のひとつといえそうだ。
アーティストたちの魅力をいかに周知・PRしていくかが今後の課題だろう。
今回の取材を通じて、あまり伝えられることのない大道芸人たちの素顔に
触れることができた。
皆さん芸人さんだけあって、サービス精神は旺盛。
話かけると親しみやすい笑顔で応えてくれる。
皆さんも、彼らの妙技と素顔を楽しみに出かけてみてはいかがだろうか。
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