いつもは静かな東京の一等区。少し歩けば日本の心臓、東京駅や国会議事堂、東京タワー。文字通り日本の都の真ん中に、その日だけは祭囃子が鳴り響く・・・。
9月29日、秋雨のちらつく中、それでも活気いっぱいに、「江戸天下祭」が日比谷公園を中心とした丸の内エリアで開催されました。今回は主に、祭りのメインイベントである、山車や神輿が丸の内オフィス街を練り歩く「巡行」を取材してきました。
映像からもお分かりのように、巡行を見ようとする人で沿道は埋め尽くされるほどの賑わい。日比谷公園に隣接する帝国ホテルの窓からもたくさんの人たちが巡行の絢爛さに目を見張っていました。特設ステージや出店の並ぶ日比谷公園メイン会場もそれに劣らず多くの人がごった返し、中には多くの外国の方たちの姿も。二日間で22万人もの人がこのお祭りに足を運びました。(主催者調べ)
そもそも、天下祭の起源は江戸時代にさかのぼります。江戸時代、数ある祭りの中で、巡行が江戸城内に進入することを公認された祭りが二つありました。日枝神社(現千代田区永田町)の山王祭と、神田明神(同区外神田)の神田祭です。これは大変な名誉であったため、これら二つは「天下祭」と呼び習わされるようになります。
両祭りはそれぞれ隔年で開催され、毎年かわるがわるその巡行が将軍の上覧をうけました。巡行では、古事記・日本書紀の神々の山車に加えて将軍家の面々が連なり、幕府に保護された天下祭は、町衆たちの心意気も祭りに花を添えたことで当時から江戸中の話題をさらったといいます。
しかし、明治時代になり、都電の開通などにより城下に電線が敷設されると、二つの天下祭のメインイベントであった巡行は困難となり、明治22年憲法発布を記念して山車100台が皇居に集結したのを最後に行われなくなりました。
今回取材した江戸天下祭は、2003年に江戸開府400年を記念して地元の町会等により再開された天下祭の三回目に当たります。往時の巡行を再現した山車14台、神輿9台などによる巡行を中心として、浪曲や三味線など江戸の粋を今に伝える江戸フェスティバルステージや、各参加町会による出し物のほか、国際都市・東京にふさわしく区内の大使館が各国料理などを振舞う「ワールドバザール横丁」が開催されました。旧来の伝統にのっとりながらも、新しいものをどんどんとりいれている江戸天下祭。さらに、巡行には東京の町会だけでなく、川越、桐生、飯能など遠方からの山車も応援に駆けつけ、祭りの祭典といってもよいような広域的なものになりました。
さて、今回特に注目した巡行ですが、高層ビルや大型商業施設、帝国ホテルやみゆき座など正に近代化相成った丸の内を、往時を再現して見たこともないような大きな山車が大勢の町衆たちに引かれて横断するという、何ともそのミスマッチさがたまらなくカッコいいものでした。
巡行は区長らと思われる方々が乗る人力車の列の先導で始まりました。沿道から喝采を浴びせる見物人に対して手を振って答えており、この祭りを官民総出で盛り上げていこうとする意思が伝わります。その後、お囃子や、女性陣の一糸乱れぬ東京音頭など思い思いの出し物がお披露目されます。
続いて現れたのが、朝鮮通信使開始400年の今年を記念して企画された当時の衣装もそのままの通信使の行列です。江戸時代に入り幕府と朝鮮王朝が国交を結ぶと、定期的に国使が多くの使節や文化人をともなって対馬から江戸まで練り歩きました。そんな朝鮮通信使がもたらした大陸の先進文化と異国情緒に当時の日本人たちは熱狂し、彼らの通った街道沿いでは熱烈な「韓流ブーム」が起きたそうです。今回「復活」した通信使たちも、沿道から一際大きい喝采を浴びていました。
そしていよいよ、天下祭の主役、巨大な山車・神輿の登場です。「弁慶と牛若丸」や神武天皇らの人形を頂点にのっけて、山車の小さな舞台上では、獅子舞やおたふく、狐などに扮した人たちがそれぞれおどけた舞を披露し、ポーズを決めるたびに沿道を埋め尽くすギャラリーから拍手、喝采が届けられていました。山車同士が順路上で向かい合い、互いの引き手たちが競うように飛び跳ねはやし立てる、喧嘩神輿ならぬ、「けんか山車」といえるようなものも観衆の目を楽しませていました。
日ごろ生活臭が感じられず冷たいイメージを抱きがちなオフィス街ですが、そこを闊歩するお囃子の人やお揃いの法被を着た担ぎ手の人たちの熱気を感じると、やはり町は人が活気づいてこそ一級の町になるのだということを再認識しました。大人たちの間で小さな子たちもえっちらおっちら山車を引いたり太鼓をたたいたり。とてもほほえましいものでした。三回目を迎える天下祭、そんな未来の担ぎ手たちが復活した祭りをより一層盛り上げていくことに大いに期待です。
ただ、それだけ立派な行列なのに、丸の内を行く通行人たちの中には何をやっているか知らない人や、通行止めに対してイラついている人が少なからずいました。実際に今回の入場者数22万人は、想定入場者数50万人を大きく下回り、去年の48万人にも遠く及ばないものとなりました。
復活したばかりの天下祭。山車巡行が招く交通渋滞や通行止めなどを了解してもらうためにも、祭りの一層のPRを行い、知名度を上げることが主催者側の急務といえるのではないでしょうか。
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